4 子どもの予防接種

 学校に入学する為には、予防接種を済ませておかねばならない。息子については出発前に広島まで出向いて受けてきた。その頃、娘は体調が思わしくなかったので、こちらに来て受けるつもりであった。

日本の保健所のような所で予防接種を受ける。息子はツベルクリン検査だけ、娘はツベルクリンを腕に、3種混合を脚にと同時に打たれた。不安が走った。一度にやって大丈夫だろうかと。嬉しくない予想が的中する。その日の夕方から片足を引きずりだした。脚は赤く腫れ上がっている。夜になると脚だけでなく、身体全体も発熱してきた。妻は一晩中脚を冷やし続ける。予防接種に対する反応症状であることは想像がつく。暫く様子を見る事にする。身体の熱は少しずつ下がってきたが、脚の方は全く快方へ向かう気配が無い。2日後意を決して病院を訪ねた。個人病院ではなく総合病院である。私のspeakingでは的を得ないのは明白であったので、writingをして持って行き読んでもらう。こちらの病院には診察室がいくつもある。一人のドクターが次から次へと患者の待つ部屋に入り、診察を済ませるといった具合である。私たちの順番である。ドクターは電話で通訳を頼み、3人で同時に話しをする。便利なものがあるものだ。日が経てば治るから安心しなさいと言われ、解熱剤を与えられ、一応安心して病院を後にする。

次は息子のツベルクリンの結果である。当然陽性反応、しかも強い。保健所から、病院へ行って診察を受けるように指導を受ける。担当のドクターは女医さんながら、Richmanという名前らしい。“Are you a Rich man.?  I’m a poor man.” 清水の舞台から飛び降りたつもりのジョークは全く通じなかった。瞬時に言い直した。”My name is Moriyama.”と。胸部レントゲン撮影を受け、結核には冒されていない事を証明してもらう。今度は書類を持って再び保健所へ。保健所では結核菌を殺す薬を90日間飲み続けるように指導される。そして、1ヶ月に一度、体重を計りに来て、異状がないかどうか確認するようにと。3ヶ月後は再び日本に帰るのだ、せっかく日本でBCGを打ち、結核菌に対する免疫力をつけているのにまたやり直しでないか。考えた挙げ句、保健所の看護婦さんを騙すことにした。1ヶ月後、薬を5錠ほど残したビンを持っていき、体重を計ってもらい、また薬を貰って帰った。8歳の子に嘘をつくことを教えてよいのかという疚しさは残った。当の息子はと言えば、彼も薬を飲み続けるのは嫌だったらしく、上手に芝居していた。しかし、会話は公然と日本語でなされていた。その中身を看護婦さんは知る由も無い。

 

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