バスケットボールのオフェンスにおけるファンダメンタルスキル(基本技能)として捉えた「人とボールの移動」について

 

 

森山 恭行*

The Movements of Players and Balls

That are Thought to be FUNDAMENTAL SKILLS

in Basketball

Abstract

 Most of basketball coaches seem to think that individual skills are fundamental in playing basketball. I took it for granted for a long time, but I have recognized some players with good fundamental skills do not always play a good role in the team systems. What do they lack? I have found that they do not move well when they are not holding a ball. This thesis is to investigate that movements of the players without a ball are fundamental skills that need coaching, especially for young players.


 

T はじめに

バスケットボールは5人と5人が対峙して行うゲームである。コート内の状況は常に変化し続けるために、全ての選手には素早く正確な状況判断力が要求される。また、ハビットゲームとも呼ばれ、基本技能(ファンダメンタルスキル:以後ファンダメンタルズ)の習慣化は、正しく優れたパフォーマンスを生む為に必要不可欠であると考えられている。

表1、表2は、国内外の指導者が考えるファンダメンタルズの内容を示したものである。

 

(表1 ファンダメンタルズ   ピート・ニューウェルと吉井四郎1)

Offensive fundamentals

1 Body control

     Body balance

     Maneuvering speed

     Foot work

2 Ball handling

     Ball handling

     Reception

     Passing

     Dribbling

3 Shooting

4 Individual offensive maneuvers

5 Offensive rebounding

 

Defensive fundamentals

1 Individual defensive fundamentals

     Physical aspect of individual defense

     Mental requirement for individual defense

2 Individual defensive plays

     Playing the offensive man without ball

     Playing the man with the ball

3 Defensive rebounding

            

(表2Fundamental Skills SIDNEY GOLDSTEIN)) 

Individual Skills

Offense

   Hold ball

   Pivot

Fake

   Look

   Cut

   Pick

   Catch

   Rebound

   Shoot Pass Dribble

2  Defense

   Near Basket

   Off Ball

   On Ball

   Away from Basket

   Move and Force

   Covering the Shot

   Box Out

 

 何をもってファンダメンタルズとするのかという定義は極めて難しい。しかし、上記の例からも伺えるように、多くの指導者はBody controlBall controlなど自分の身体各部をボールに合わせて意のままに扱える閉鎖スキルをもって、ファンダメンタルズとして捉えているようである。

筆者は、ボールを貰ってからの11の攻撃力には優れるが、アシストしてもらう事が不得手な選手、ボールを手にしなければ何もしない選手を多く見てきた。言い換えれば、一般的に考えられている高いレベルのファンダメンタルズを持ちながら、5人の中の一員としては十分機能していない選手である。それらの選手は共通して、「どこに」「いつ」動けば良いのかを、コート上で判断する力に欠けていた。

バスケットボールに限らず、敵味方が交錯するスポーツにおいては、ボールの周辺に選手が密集することが多い。この事も、選手達が、望ましい動き(「どこに」「いつ」動けば良いのか)を判断することが決して容易ではないということを示している。

また、バスケットボールのオフェンスプレイを指導する際に「合わせ」という言葉が頻繁に用いられる。見方選手からアシストパスを貰う為、または瞬間的に自分にディフェンスの注意を引き付け、オン・ボール・マン(以下ボールマンも同義)の邪魔をさせない為の動きをいう。高度な「合わせ」のプレーは、練習の積み重ねによる阿吽の呼吸によって生まれるものであろうが、どの選手も共通して行うべき基本的な「合わせ」の動きは存在する筈である。

石垣3)は「スポーツにおいて見るとは」という講演において、「同じ状況であっても、それがわかっている選手とわからない選手には違う状況が見えている。所謂センスのいい選手は指導しなくてもできるが、ほとんどの選手は教えられてできるようになる。状況に応じて、どこを見て、どんな情報をとれという指導をスポーツ上達の早期にする必要がある。」と述べている。

  以上のことから、筆者はファンダメンタルズとは、単に個人のBody controlBall controlを言うのではなく、初期段階から指導しなければ定着しにくいこと、反復を必要とすること、そして全ての選手が共通して習得しておかねばならない技能であると定義した。例えば状況を判断して「どこに」「いつ」動けば良いのかを決定する力も、決して高度な応用技能ではなく、初期段階から指導すべきファンダメンタルズの1つであるという考えである。

ここでは「どこに」「いつ」動くかについて、「人とボールの移動」という視点から整理し、低年齢時からの指導の指標となることを期することにする。

U ボールの移動と動きの原則

バスケットボールにおいて最も望ましいパスとは、シュート確率の高い状態の選手に渡すパスである。実際の場面では、ゴール下にいるノーマークの選手に送るパスであろう。この場合は100%に近いシュートの確率が期待できる。しかしこのような高確率のシュートチャンスが頻繁に発生することはない。また、1つのパスで望ましいシュート局面が作り出されることも希で、ほとんどの局面は連続したパスやドリブルによるボールの移動によって生み出される。それでは、連続したボールの移動によって生み出されるシュートチャンスは偶然発生したものであろうか。

筆者はチームとして機能する為のボール移動の原則(どこにパスをすべきか)を次のように整理した。

 

第1 オフェンスとディフェンスの位置関係(ディフェンスより内側にいるオフェンスにパス)

第2 オフェンスとディフェンスとの距離(ディフェンスからの距離が遠いオフェンスにパス)

第3 ゴールとの距離(ゴールの近くにいるオフェンスにパス)

第4 エンドラインとの距離(エンドラインに近いオフェンスにパス)


下図(1)〜(4)の場合、一般的にはそれぞれB、A、B、Aの選手にパスすべきであると考える。

    

    

      図1 誰がどこにパスすべきか

V 「どこに」「いつ」動くべきか

U のボール移動の原則を踏まえながら、「どこに」動くべきか(言い換えれば「どこに」いるべきか)、「いつ」動くべきかについて、3対3まで(2133)の対応を考えてみたい。[実際のゲームでの55は、意図的なダブルスクリーン(2人が横並びで掛ける)や、スタッガースクリーン(2人が時間差で掛ける)を除き、ほとんどの場合種々の33の組み合わせであるという考え方からである。]

 

1スペーシング(コート上での位置取り)

バスケットコートの上で、意識的に選手同士の距離を空ける事をスペーシングという。
図2(A)(B)を見比べた場合、(A)は選手間の距離が近く、ボールマンが攻撃し辛い状態である。(B)のようにスペーシングをする方が望ましい。(オフェンスの選手同士が近づいて良いのは、スクリーン・プレーを企てる時だけである。)

   

 

アウトナンバーの状況

  ボールを貰った時点でアウトナンバー(オーバーナンバー:OFFDEF)になっている状況である。

1) 21の場合

@   オン・ボール・マン(ボールを保持している選手)の動き

 


  ボールマンが@、Aいずれの進路を取るべきかの答えは安易に導けない。ドリブラーはゴールに向かって直進する事を原則とするが、この場合のようにオフェンス間の距離が近い場合には、2人の内のいずれかがAのような走りかたをすべきであると考える。                                                                

  Aノー・ボール・マン(ボールを保持していない選手)の動き

 

 

  図4はドリブルで攻撃してきた選手が最終的なパスをしようとしている状況である。バスケットボールにおいては、オフェンスの2人のプレーヤーを結ぶ直線上にディフェンスが位置し、その選手を避けて届けるパスが最も難しいパスであると考えている。特に動きながらそのようなパスを実行するとミスプレーにつながる事が多い。

そのため、レシーバーはディフェンスの陰(裏)に位置しないように努力すべきであると考える。つまり図4の場合、ノー・ボール・マンはAの位置になるようにランニング・スピードをコントロールした方がよい。(ディフェンスを追い越す事によって、陰になることを避けることが可能ならば、それがベストであるがこの図の場合コートの外に出てしまう。)

 

2) 3対2の場合

@     オン・ボール・マン(ボールを保持している選手)の動き


 5の状況におけるボールマンは次のようなプレーを選択出来る。

その場でショット

ドリブルで移動して、ショット(図中のSの位置)

ドライブインしランニングショットを狙う、ディフェンスが来ればパス

  ロ・ハの選択をする際には私は@の進路を取るべきであると考える。Aの進路を選択した場合1人のディフェンスに2人を守られる可能性が強いからである。

A     ノー・ボール・マン(ボールを保持していない選手)の動き

  

      

図6は選手 Cがボールマンになった状態である。そこから考えられる選手A,Bそれぞれの動きを示したものが、図6―1、図62である。

61では、A選手はその場近くでCからのパスを受ける動き(B選手との間で, a選手に対し21で攻撃する為)と、ゴールに向かってカットインした後にエンドライン方向でCからのパスを受ける動きを示している。同じく図62でも、B選手はその場近くでA選手から中継されてくるパスを待つ動きと、ゴールに向かってカットインした後にエンドライン方向でCからのパスを受ける動きを示している。

A,B選手はそれぞれどの動きを選択すべきであろうか。

7のようにA選手が持っていたボールをC選手にパスをした状況(図6)がこの場面のスタートであると仮定すれば、A選手がC選手に向かってボールを離した瞬間に、B選手はゴールに向かってカットイン(その後エンドライン方向でボールを受ける)をするべきである。或いはC選手にパスしたA選手がカットインをしても良いであろう。いずれにしても、B選手がその場でじっとして、A選手からのパスを待ち続けるというのが最も好ましくない動きの選択と言える。ゲーム中にアウトナンバーの状況が長時間連続する事は有り得ないので、一瞬でも早く良い位置でボールを受け取る事ができるような動きを選択しなければならない。

   6のような32の場面はゲーム中には発生し得ない。実際のゲームでは10名がプレーするからである。しかし、図6のような状況は、ファースト・ブレイクの詰め、ゾーンプレスに対するパッシング・ダウン(ドリブルを用いずにパスだけでボールをフロントコートに進める事)、ゾーンディフェンスに対するオーバーロード(人数的優位)の意識などと結びつき、応用的な技能を習得するために不可欠なファンダメンタルズであると考えられる。

ノーマルナンバーの状況

ここではノーマルナンバー(OFFDEF)からペネトレート(ディフェンスを抜くべく、ドリブルでゴール方向へ侵入すること)が起きて、ドリブラーに対してヘルプディフェンスが提供された状況、およびポストマンに対してアウトサイドのディフェンスからヘルプディフェンスが提供された状況を設定した。

 

1) 22の場合


  図8はA選手がペネトレート(ドライブイン)をして、それに対しb選手がヘルプを提供した状況を示したものである。それに続くB選手の合わせの動きを示したものが図8―1である。前述のとおり、ディフェンス選手の陰でパスを受ける事は好ましくないという理由から、その場でパスを待つのではなく、@またはAの動きを選択すべきである。どちらがより望ましいかは、エンドラインとの距離、ディフェンスの顔の向きなどが決定条件となろう。

   


  9はボールを持ったポストマンBに対し、aがゴールの方に下がり(ディッギング)、bに協力してBを守ろうとしている状況である。

  

それに対応するAの動きには@〜Bの進路が考えられる。aがAから視線をはずしている場合には、背中側を通るように@またはAを選ぶのが良い。aがAを視野に入れながらディッギングをしている場合には、Bを選択する事によって、Aはフリーになることができる。aがAに付いてくれば、Bを11の状態にすることができる。

2) 33の場合

  


図10は22と同様にペネトレートがおきて、ヘルプディフェンスが提供されてからのB選手及びA選手の合わせの動きを示している。@またはAの動きが考えられる。B選手が@を選択した時には、必然的にA選手は@を選択するようになる。理由は繰り返して記述しているように、陰に位置する事を避ける為である。

@とAの選択については、一般的には@を選択すべきであると考える。B選手が@の動きを選択した方が、b選手が守りにくいこと、そしてB選手にパスできない時にA選手へのパスがし易いことによる。

B選手はb選手が自分を見失った時に動き出し、そのB選手の動きを見てA選手は動き始めなければならない。

 

以上、オフェンス有利の状況設定からの合わせの為の「動き」について具体的な場面について考えてみた。オフェンス有利な状況を生み出す為には、優れた11の技量や、正確なスクリーンプレーが必要であることは今更述べるまでもない。しかしながら、それだけでは十分なオフェンス力を発揮することは出来ないと考えられる。

 

W まとめ

  選手は、NBAをはじめとする高レベルのゲームをテレビ等で観る機会を持つ。しかし特別な状況設定をして意識しない限り、目はボールの動きを追い続ける。模倣による高い技術の習得が期待できるのは、ボールを伴った動作、或いはボールの周辺の動作だけと考えて差し支えない。つまり、多くの選手は適切な指導無しには、「どこに」「いつ」を理解して動けないと考えられる。指導者の中にも、ボールを持っている選手のプレーに多くの関心を持ち、その内容について指導助言することに精力を傾けている者が多い。しかし、指導者として最も力量を問われるのは、選手が興味を持ちにくい、或いは指導なしには理解しにくいボールを持たない時の動きを、どれだけ教えられるかである。

  バスケットボールの指導における初期段階では、ボールコントロールやボディコントロールの指導が中心となろうが、平行して「観る」能力を開発して行く必要がある。コート上の状況判断をするための「観る」力である。それらは、決して高度な応用技能ではない。「観て」「動く」ことは応用技能ではなくファンダメンタルであるという視点から、状況判断すべきこと(ボールと人の「動き」)について整理してみた。

 

引用文献

1) 吉井四郎 (1979)「バスケットボールのコーチング、基礎技術編」、大修館書店、154155

2) SIDNY GOLDSTEIN (1994)PLAYER’S BIBLE」、GOLDEN AURA PUBLISHING33

3) 石垣尚男 (1997) 4回スポーツビジョン研究集会・抄録集「スポーツにおいて見るとは」

参考図書

「倉石 平のオフェンシブバスケットボール」大修館

    書店、1995

「ウィニングバスケットボール」笠原成元編、大修館 

    書店

STEPS TO SUCCESS HAL WISSEL

   Human Kinetics1994