「マンツーマンオフェンスにおける5人の動き作

り」 について

 

T.自分自身への問いかけ

 大学生のときよりコーチングを始め、20年間バスケットボールを指導してきた。ほとんどの時間は高校生を対象にした指導であったが、幾度となく小学生や中学生を指導する機会も与えていただいた。

 その間におけるチームオフェンスの動き作りに関する考え方は、オフェンスの基本は1対1であり、その技量がある程度高まっていけば2対2へ、そして3対3へと発展させる。3対3の動き作りが出来れば、5対5の動きもスムースにできるようになるであろうという発想であった。

 その考えは決して誤ったものではなかったと思うが、次のような疑問点から、異なった発想で5人の動き作りを教えるべきではないかという考えが頭を擡げた。

・1対1の強い選手が沢山いるチームが、本当にチームとして強いのか。

・それぞれの選手が好きなようにプレーするとお互いが邪魔をし合ってしまう。良い解決方法はないか。

・試合中1対1を見物している(ボールマンの1対1を立ち止まったまま見ている)選手がいるが、それを指導するにはどうしたら良いか。

・3対3では上手くプレーするのに、5対5では上手くプレー出来ない選手がいるのは何故か。

・指導者として最も教えなければならないのは5人の動き方ではないか、言い換えればボールを持っていない時の動き方ではないか。

・1対1の強い選手を育てるにはある程度の限界があるが、協力し合った5人を作るには無限の可能性があるのではないか。

 5人の動き作りについて考える為に、理解して置く必要があると考え記述したのが、以下のU.攻撃法の発達  V.2つの(ASSIGNED) MAN TO MAN DEFENSE  W.5対5におけるオフェンスの動き方の一般的方法  X.MAN TO MAN OFFENSE に関する著名な指導者の提言  である。

U.攻撃法の発達

 1.PATTERN OFFENSE(プレーヤーの配置:フォーメーションと得点をあげるための動き:スコアリングプレー)の発達

 (1)「ポスト・ピボット・プレー」

 (2)「スクリーン・プレー」

 (3)「ダブル・スクリーン・プレー」

 (4)「タンデム・ポスト・オフェンス」 

 (5)「スタック・オフェンス」

 

 2.CONTINUITY OFFENSE(パターンオフェンスであるが、スコアリングプレーを展開し終わったプレーヤーの配置が、はじめのフォーメーションにもどる)の発達 

 (1)「8の字攻撃法」と「ローリング・オフェンス」

 (2)「シャッフル・オフェンス」

 (3)「フレックス・コンティニュティ・オフェンス」

 

.FREELANCE OFFENSEの発達

 (1)フリー・オフェンス

 (2)パッシング・ゲーム(モーション・オフェンス)

(吉井四郎バスケットボール指導全書2より)

V.2つの(ASSIGNED) MAN TO MAN DEFENSE

 

.「あなたはあなたの相手を守りなさい、私は私の相手を守ります」型

 防御者はいつでも相手に接近してマークする。ボールを保持しない攻撃者をマークする防御者から、ボール保持者をマークする防御者へは、ごく僅かにしかヘルプを提供しない。

 

.「みんなでヘルプし合って、ボールマンを守りましょう」型

 ウィークサイド或いはボールから離れた所でプレイする防御者は、バスケットエリアに集中する。そしてヘルプは可能であるときはいつでも、ボール保持者および危険な攻撃者をマークしつつある防御者に提供される。

 (吉井四郎バスケットボール指導全書2より)

 

近年はほとんどのチームが2の型を指向している。

 

W.5対5におけるオフェンスの動き方の一般的な方法

 

.誰もが1対1型

 それぞれ個人が1対1を行う、他の者は見物している。

.フリーオフェンス型

 左右、イン・アウト、縦、横など様々な位置の組合せによる、各種の2対2、3対3をプレイヤー同士で選択し、動きを作る。勿論1対1も積極的に行う。

.左右分割型

 1対1、2対2、3対3を、ボールサイドとヘルプサイドの左右に分けて考える方法(ヘルプサイドのオフェンスは、必ず自分のディフェンスに対しボールマンをヘルプさせない動きを入れる)。 

.3メンパターン組合せ型

 3対3のパターンを沢山用意し、それらを連続的に組み合わせて行く方法。

.パターンオフェンス型

 5人の動きをあらかじめ定め、それに基づいて動く方法(フォーメーションプレー、サインプレー)。

.モーションオフェンス型

 ドリブル主導のオフェンスにならないように、連続的な動きとパッシングによって攻撃を展開しようとする方法。

 

X.MAN TO MAN OFFENSEに関する著名な指導者の提言

 

.コーチングとは、プレイヤーに、ゲームでいかにプレイするかを教えることです。

.どのプレイヤーもシュート・セレクションを理解していると思い、自分が打ったシュートは全て良いシュートだと思っています。

.もしチームに傑出した得点力を持つシューターがいるとすると、彼は他のプレイヤーとは違ったシュート・セレクションを持つはずです。

.私たちのチームには、シュートさせなかったプレイヤーがいました。そのプレイヤーにはためらうことなく、シュートすべきでないと伝えました。

.プレイヤーは自分の長所を理解する以上に、短所を理解することが重要です。プレイヤーにすべきでないこと、あるいは出来る能力のないことを遠慮なく告げることにしています。

.得点の際にはボールを持ってからの動きよりも、ボールを持たない時の動きの方が重要だと教えています。

.チームメイトをノーマークにする方法には2つあります。1つはボールの位置を変えることで、もう1つはスクリーンをする事です。

.シュート・セレクション、ミスをしないボールハンドリング、ボールを持ってないプレイヤーの動き、ノーマークにするための相互協力の4つの基本を教えることの方が、動きのパターンを教えるよりも、バスケットボールを教えることになります。

.ボールをもらおうとする場合、プレイヤーの関心はボールに向いてしまいがちですが、ボールに対してではなく、自分を防御しているディフェンスに対して焦点を合わせるように教えています。

10.パスについての基本的な考えは、ディフェンスから遠いところへボールを出すことです。直接オフェンスプレイヤーをねらってパスを出してはいけません。

11.約束事が多ければ多いほど、オフェンスはパターン化され、ディフェンスから予測されてしまいま す。

(以上 Knight and Newell Winning Basketball より)

12.オフェンスを5人のチームでどのようにプレイするかを学ぶ前に、5人を分解して個々に、或いは 2人、3人の単位でプレイすることを教えなければならない。

Wotten Coaching Basketball Successfully より)

13.パッシングゲーム(モーションオフェンス)は、1対1あるいはドリブル主導のオフェンスのゲーム概 念を否定するためにフリーランスオフェンスに繰り込まれたものである。だが、1度ディフェンスを動 かしてしまえば、1対1の動きに対して何の異義もない。

  14.十分に威力のあるフリーランス・パッシングゲーム(モーションオフェンス)は、協力と利己的でない   プレイを促進するためのものである。このオフェンスは各プレイヤーにかなりの自由と自発性を容  認するものであるが、決してルールがないわけではない。

  15.プロも含めてどのような技術水準のプレイヤーも、そのほとんどが持っている 共通の弱点は、ボ  ールを持っていないときの動ける能力が限られているということである。パッシングゲームでは、プ  レイヤーはボールを持っていなくても必ず動かなければならない。その為にプレイヤーは上手く動く  ことが出来るようになり、またその理由がわかるようになる。

    16.フリーランス・パッシングゲームオフェンス(パッシングゲーム)から得られる経験は、プレイヤーの  全ての動きを意識的なものとし、結果的にセットオフェンスをよりスムースにさせる。

   17.パッシングゲームから得られる素晴らしい動きは、時としてリバウンドをより一層強くするものであ   ると確信している。ディフェンスは動かされてしまっているので、ボールと選手を同時に見ることが困  難になり、パターンが決まっているチームと対する時と同様にはブロックアウトできなくなってしまう  のである。

(以上 Dean Smith BASKETBALL MULTIPLE OFFENSE AND DEFENSE より)

   18.Ballを含むScreenが作られるときには、Offenseの有力な要素が1点に固まる。これは、Defenseの集   中すべきものをそこに限定することにもなり、強いDefenseを強攻する結果になりやすい。

  19.Ballを含むScreenはOffense側から見れば、Setするのに最も容易なScreenである。そのため、それ    をある程度抑制するものがないときには、あまりにも多く使用されることになり、結果的に効果的で  ないScreenの連続使用によるOffense時間の浪費になりかねない。

(以上 吉井四郎 MOTION OFFENSEの研究より)

Y.私のチームオフェンスの動き作りに関する考え方

 自分自身への問いかけ、バスケットボールの技術変遷への理解、著名な指導者の提言などを踏まえ、次のような方向性を見出すことが出来た。

 

 A.人の移動(動き)とボールの移動(パス)にある程度のルールを設けることで、5人が好き勝手に  動くことによる混乱を防ぎ、まとまった動きが作れる。偶然上手くいったプレーに必然性を持たせる ことが可能になる。

  B.監督・コーチが感覚的に良いと思うプレーを、プレイヤーに納得させるために、また誤った動作に 対して指摘・指導するためにもチームとしての共通ルールが必要である。

  C.原則的なルールの中で最大限に個人の発想を大切にしたい。特に自分のマークマンとの駆け引  きにおいてよりよい動きを創造させたい。

  D.チームとしての動きが上手く行くようになっても、個々の力が高められなければ頭打ちになる。個  々のレベルアップとチームの動き作りは平行して積み重ねる必要がある。

 多くの書物やビデオを参考にし、私が現在指導する対象にとって、また長育に恵まれない島根県のプレーヤーにとって、適切であろうと思われるマンツーマンオフェンスを考えた結果、以下のような「モーション・オフェンス」を考えるに至った。

 

.モーション・オフェンス(パッシング・ゲーム)とは

 個人の感覚に全ての動きを委ねたオフェンスを「フリー・オフェンス」と呼ぶことにすると、「モーション・オフェンス」は「フリー・オフェンス」と「パターン・オフェンス」の中間に位置するものと考えられる。ドリブル主導のオフェンスのゲーム概念を否定しているために「パッシング・ゲーム」とも呼ばれる。チーム内においてボールの移動と人の動きに約束を持った上で、個人の感覚を尊重したオフェンスと言える。

 

.モーション・オフェンスの特徴

<長所>

・動きが途切れないためにヘルプディフェンスをされにくい。

・ボールを持ってない時の動きの大切さが理解できる。 

・個々の1対1の突破力が不足なチームでも、チームオフェンスによって、ディ

 フェンスとの距離やずれを作り出すことが出来る。

 

<短所>

・ボールを持つ時間が均等になりやすいため、各人にパスやシュートなどバランス

 のとれた技術が必要になる。

・瞬間的な状況判断力が要求される。

・ポジションによる役割分担が曖昧になるため、リバウンド、セーフティーが安定

 しにくい。

 

.オフェンスの約束事

 次のようなチームルールを作った。説明が必要なものについては、図と共に後に記述する。 

 

(1)スクリーンプレイ以外の約束

<アウトサイドプレイヤーの場合>

@  同じ場所に立ち止まった状態でボールをもらわない

A  スペーシングを意識する                                               ……(図1)

B  どこに(だれに)パスをするのか                                   ……(図2)

C  ボールを持ったらゴールに正対する

D  インサイドにボールが入ったら、必ずゴールに向かったカットを行う

E  インサイドからアウトサイドに返ってきたボールは、積極的に攻める(シュートまたはドライブ)

F  同じサイドのパスのやりとりは2往復まで

G  特別な場合を除き(後述)、ボールの方へ近づかない               ……(図3)

   

    <インサイドプレイヤーの場合>

H  基本的なポジションはローポストかミドルポスト                       ……(図4)

I  ハイポストへのフラッシュ(飛び出し)はボールの逆サイドから                                                                                                                                                             ……(図5)

J  ボールサイドで3秒以上立ち止まらない

K  シュートエリアの外でボールを受け取らない

   

    (2)スクリーンプレイの約束

L  アウトサイドプレイヤー同士のスクリーンはAway-screen              ……(図6)

M  インサイドプレイヤーとアウトサイドプレイヤーのスクリーンはBall-screenもOK(ハイポストでのアウトサイドスクリーン、ローポストマンがフォワードに近づいてのインサイドスクリーン)                                                                                                       ……(図7)

N     Away-screenはボール(ボールライン)に近い者がScreenerになり、遠い者が

 Userになる                                              ……(図8)

 

Aスペーシングを意識する

 図1-(1)〜(4)を見てA、Bどちらのスペーシングが望ましいと思うか、またその理由は何故か

              

 

 

 

 

スペーシングを考える上での、留意点として次のことが考えられる。

  1)プレイヤー間の距離は5〜6mあける、但しポストマンとの距離は、それ

    より近くなることもある。

  2)スキップパス(とばしパス)ではなく、ショートパスの出来るところが複

    数ある。

  3)セーフティーに備えることが出来るように、ガードの位置を空にしない。

〔答え (1)A (2)B (3)B (4)A 〕

 

Bどこに(だれに)パスをするのか

 図2-(1)〜(4)を見て、a、bどちらのプレイヤーにパスをした方が良いと思うか、その理由は何故か。

 

 

  パスの優先順位(基本的原則)は次のように考えられる。

  第1 オフェンスとディフェンスの位置関係(ディフェンスよりゴールに近い

     位置にいるオフェンスにパス)

  第2 オフェンスとディフェンスとの距離(ディフェンスから離れているオ

     フェンスにパス)

  第3 ゴールとの距離(ゴールの近くにいるオフェンスにパス)

  第4 エンドラインとの距離(エンドラインに近いオフェンスにパス)

〔答え (1)b (2)a (3)b (4)a 〕

 

G特別な場合を除き、ボールの方へ近づかない

 図3-(1)〜(4)は3対3におけるムービングを示したものである。スペーシングを確保するため、低身者同士のBall-screenはあまり有効でないため、選択肢が多くなることによる混乱を防ぐために、後述の14のケースを除き、私は(3)(4)のスクリーンは禁じている

 

H基本的なポジションはローポストかミドルポスト

 図4-(1)〜(3)は通常のポストマンが占める位置を示している。固定したハイポストマンはそれへのパスがインターセプトされ易いことと、ガードの1対1の邪魔になることが多いため、(3)の位置では長く止まらないように指導している。

 

 

 

Iハイポストへのフラッシュ(飛び出し)はボールの逆サイド(ヘルプサイド)

 から  

 

 図5-(1),(2)はハイポストへのフラッシュの仕方を示している。選択肢の多さによる混乱を防ぐため、(1)のようにヘルプサイドからフラッシュするよう指導している。

 

Lアウトサイドプレイヤー同士のスクリーンはAway-screen   

 

    

 図6-(1)はAway-screenを、図6-(2)はBall-screenを示している。選択肢が増えることによる混乱を防ぐためと、前述の8の考え方から(1)を選択させている。

 

MインサイドプレイヤーとアウトサイドプレイヤーのスクリーンはBall-screenもOK  

 

 図7-(1)はハイポストにおけるアウトサイドのボールスクリーンを、図7-(2)はフォワードポジションでのインサイドのボールスクリーンを示している。チームとしての動きのバリエーションを増やすことで、ディフェンスの慣れを防ぐことを目的とするため、またインサイドプレイヤーとアウトサイドプレイヤーのボールスクリーンは、ミスマッチ(小さなプレイヤーが大きなプレイヤーをマークする状態)を生みやすく、有効なスクリーンになることが多いため、この2つのケースだけBall-screenを採用している。

 

NAway-screenはボール(ボールライン)に近い者がScreenerになり、遠い者がUserになる 

 図8-(1)〜(4)は、Away-screenの2つのケース(Down-screen、Back-screen)を示している。チームに共通なルールを作るために、「ボール(ボールライン)に近い者がScreenerになり、遠い者がUserになる」ことにしている。従って、私のチームでは(1)、(4)の動きが原則になる。但し、ディナイのオーバーディフェンスが厳しいチームに対しては、逆の選択をさせることもある。

 

 

 

 

 以上、私のチームにおける約束事について書いてきたが、それぞれのチームに適した約束事を作ることによって、プレイヤーの迷いを減らすことができると思う。しかし、動きが混乱しない反面、ディフェンスに慣れられるという面も合わせ持っている。分解練習において、機転の利いた応用的・創造的な動きができるようになることと、動きのシステムを変化させたオプションプレーあるいはフォーメーションプレーを持つことによって、ディフェンスをより困難にすることが可能になると思う。

 現在私のチームでは、モーションオフェンスをベースに、1種類のフレックスオフェンスと、UCLAのハイポストオフェンスを組み入れようとしている。

 

.アウトサイドとインサイドの人数バランス

(1)3アウト2イン

(2)4アウト1イン

(3)5アウト

(4)2アウト3イン

 

 それぞれの目的などについて書かれた指導書も多くあるので、ここでは割愛させて頂く。

 私のチームでは現在、4アウト1インのシステムをベースにしている。それは、センターの身長が低いことと、アウトサイドのシュートに比べドライブが得意なプレイヤーが多いためである。

 

.スクリーンムーブとカット

 これらについて記された書物も、沢山出版されているのでここでは割愛させて頂く。

 

Z.おわりに

 今までバスケットボールに関する書物を随分多く読んできたが、例えばボールの移動について説明されたものに出会ったことがなかった。経験的に良かれと思って選手に指導してきたことを明確にすべく、文章や図で表現したつもりである。参考にしていただければ幸甚である。

 5対5のスクリメージ(試合形式の練習)が全集法であり、1対1、2対2の練習が分習法であるという考え方ではなく、5人のチームオフェンスを考えた分解練習が必要であろうと思われる。その分解練習については今回一切触れていない。またの機会に譲りたいと思う。

 私自身このようなオフェンスシステムでチーム作りをするのは初めてなので、どのような結果になるのかわからない。しかし、指導して6カ月経ての感想は、ボールを持っていないときの動きの大切さについて少しずつ理解してくれているように思う。

 皆さんがお考えの5人の動き作りの方法、そしてその有効な練習方法をご教示頂くとともに、この冊子についてのご意見・ご感想を賜りたい。

                             1995年12月

                           松江工業高等専門学校  

                                  森山 恭行